現在32歳の名和晃平。アーティストで32歳といえばまだまだ若手だが、彼の活躍ぶりはベテランも真っ青。今や同世代で最も多忙な作家であり、美大生の憧れを一身に受ける存在といっても過言ではない。そんな彼はどんな作品を作るのだろうか。
名和は自分の作品を「彫刻」だと認識しているが、それらは伝統的な意味での彫刻とはかなり違う。例えば『BEADS(ビーズ)』と題されたシリーズは、剥製など様々な物体の表面をびっしりガラスビーズで覆ったもの。ビーズ越しに見る物体はまるで光の粒に還元されたような趣で、普段我々が抱いてるイメージを覆す力を持っている。また『PRISM(プリズム)』というシリーズは、物体をプリズムシート(光を2方向に分けるシート)の箱に閉じ込めることで、虚と実の狭間のような不思議な世界を表現した作品だ。他にも、発泡ポリウレタンを用いた不定形の物体『SCUM(スカム)』や、液体の有機的な動きがイメージ発生の瞬間を連想させる『LIQUID(リキッド)』など、計5つ以上の系統の作品を継続的に制作している。いずれも抽象的ながら人間の感覚を直接刺激するのが大きな特徴。作品を通して人間の感覚や感性を揺さぶることこそ名和作品の本質である。
アーティストの中には特定の素材や技法にこだわる人もいるが、それらに対する柔軟さも名和の特徴だ。「素材にこだわりはありますけど、それがどんなインターフェースになるのか、どんな感覚の場を作り出せるのかが重要」という言葉からも彼のスタンスが窺える。また、大学院進学時にIT革命があり、以後はもっぱらインターネットで素材を調達しているのも興味深い。「地理的、時間的要因が無くなったので、発想にブレーキをかける必要がないし、彫刻だからこの素材という前提もなくなりました」。高度情報化社会におけるアーティスト像とは、案外彼のような存在なのかもしれない。
Water Cell(部分)
子供の頃からもの作りが好きで、美大進学後も「ものを作る仕事がしたいと思っていたけど、美術家でやっていけるイメージが湧かなかった」という名和。ところが、大学院在学中に留学した英国での経験が彼を変えた。「とてもシビアな世界だけど、認められれば社会的なステイタスがついてくる。それを知ってスイッチが入りました」。初個展以降、海外での活動も積極的に展開。今年はドバイ、バルセロナ、バーゼル、チューリッヒ、北京と月替わりで海外での発表が続く。活動エリアのグローバル化も、まさに現代的である。
1990年代の世代、例えば村上隆は、現代日本文化の特異性を武器にしてアイデンティティを確立した。しかし、名和晃平(及び同世代の作家)には、もはやそんな必要はない。優れた作品か否か、基準はそれだけなのだ。21世紀が始まってまだ8年しか経っていないが、日本人アーティストの生き方は随分と進化したらしい。名和を見ていると、そのことをまざまざと実感させられる。
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Gush#13 (2006, h:695 x w:995 mm ,紙にアクリル絵の具)
Water Cell (2007, 800 x 800 x 2800mm, 水、
シリコーン オイル, 撮影:木奥恵三)
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2008年1月28日
(美術ライター 小吹隆文) |