Q: ビジュアルにこだわるラジオ局というのが、成功のきっかけだったのでしょうか?
プロデューサーの
谷口純弘さん
谷口: ラジオ局でこういうことをしていると、レコードメーカー、代理店、アーティスト事務所、アーティストとか、色々な人が興味を持ってくれました。「この絵が気に入ったので」と、CDジャケットに絵が使われたり、オーディションで選ばれたアーティストたちとコラボレーションを求めるクライアントが現れて、はからずも次々と仕事が生まれていきました。見てもらいやすい環境に作品を置き、出会いをマッチングするハブ的存在となっています。
Q: 「ラジオ局」「音楽」という枠を超えて、現在は様々な場面でアーティストが活躍していますね。
谷口:
オーディションで選ばれたアーティストたちに「私、プロで食べていきます」と宣言されると、単なるプロモーションの仕事だけで生計を立てるのは難しいですし、キャンペーンが終ったからやめる、という事ができなくなってきました。彼らをなんとかしなければという使命感も含め、うまく機能する仕組みができないかと考えたのがdigmeoutです。
当時はインターネットもまだ黎明期で、『FM802アートブック』という名前でも良かったのですが、それだとラジオ局のプロモーションでしかないし、ましてや関東では知名度がない。そこで、プロジェクトのコンセプトを表すdigmeout(発掘する、という意味)という言葉が生まれました。それによって、求心力を持つような仕組みができたと思います。
Q: 海外で活躍するアーティストも多いですね。
ナイキとのコラボレーション「wazzawall」第1弾の山下良平
谷口: ポップで若々しくてさわやかな作品、というのがdigmeoutのカラーとして定着しています。
そういった作品に対して世界での評価は高いですし、支持されることはとても励みになっています。先日、香港で開催された日本人アーティストのグループ展に参加したのですが、我々のアーティストの作品も、日本を代表する著名なアーティストと並んで展示されています。
そして、アーティストへ定期的に仕事が舞い込んでくるようになったのですが、本人たちがまだ素人なので、作品管理や自分の絵の売り方などがわからない。そういう面もフォローしようということで、アーティストのエージェントも始めました。
Q: どのような作品に注目していますか?
岸野真生子の作品はりそな銀行のキャッシュカードにも使用された
谷口: digmeoutと名乗っていますし、いきなりプロのアーティストを「うちのアーティストです」っていうのは違います。もう既に器用に何でも描ける人よりは、少々荒削りでも他とは違う何かを持ってるアーティストを選んでいます。
Q: 選んだアーティストたちとはどのように仕事をしていますか?
谷口: 一緒にご飯を食べたりして、コミュニケーションを密に取りながら適性を見てディレクションをしていきます。作品に関するアドバイスだけではなく、彼らの人生相談や恋愛話にも乗ります。digmeout学園とも呼べるかもしれませんね!ビジネスライクにではなく、時間と手間をかけてコツコツとやっています。
Q: ウェブサイトでは、常時クリエイターからの作品を受けつけて、必ずコメントを返す、ということもされてますが、反応はいかがですか?
谷口: 今年の4月から始めましたが、順調に応募が来ています。アーティスト登録ウェブサイトは数多く存在しますが、コメントを返しているところは殆どないのでは?
かなり大変ですが、アーティストは本気ですし、僕らもどれだけ真剣かを表さないと、と思っています。
Q: 大阪で活動することに良さはありますか?
谷口: 東京は広いし、影響力を持つメディアが限定されています。加えて、見ず知らずのアーティストを拾って育てていこうという仕組みがあまりないのでは、と思います。その点大阪では、ラジオ局で何かをやっていると、割と若い子は知ってくれる。でも単なる「地域限定」で終らない部分があり、大阪はちょうどいいサイズ感の中で何かできる事が面白いと思います。
もうひとつは、大阪は実利を伴う街。どんなに無名でも、美味しいものは美味しい!と言える価値観が浸透してるところがあって、モノを観る目を大阪人は持っているのではないでしょうか。
街がアーティストを育てていくという意識や雰囲気が強いと思います。
Q今後の目標は?
ソニーとのコラボレーション。「Canvas@Sony」銀座ソニービル全長36メートルのアートウォール。
作家はきたざわけんじ。
谷口: イラストレーション事務所的な所から始まりましたが、コンテンポラリーアートという文脈に載りそうな作家も出て来ています。企業とのコラボレーションから次のステップに踏み出せるようなアーティストも少しずつ出始めているので、彼らを送り出せるような仕組みができればいいなと考えています。
アーティストが切磋琢磨しあう場所が作れたら面白いと思っています。
優れたアートと知名度は無関係という信念のもと、アーティストを「発掘」して終るのではなく、彼らを育てながら活動の場が次々と産み出されていく。digmeoutのスタイル、そして大阪という街が持つ熱意ある人々の魅力が重ねられて、今後も個性豊かなアートが大阪経由で世界へ発信し続けられそうだ。
筆者プロフィール
木坂 葵
1978年生まれ。神戸大学文学部卒業。在学中より大阪のアートNPOにてコーディネーターとして勤務。その他、関西を中心に美術の裏方業務経験を積む。現在、水都大阪2009 アート部門キュレーター。