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銅版画×パステル 安井寿磨子

安井寿磨子さん

 銅版画特有のカリカリした硬質さと、繊細な柔らかさを併せ持った線に、パステルの淡い色彩が同居した安井寿磨子の作品。木々や花々、少女(妖精?)の戯れなどを描いたそれらを見ていると、まるで「春眠暁を覚えず」のような夢うつつの境地に引き込まれてしまう。その一方、どこか不安な気配を感じることも……。心地よいまどろみと恐れの感情が入り混じったメランコリックな世界こそ、安井寿磨子の大きな魅力である。
  彼女が銅版画と出合ったのは、大阪芸術大学の授業でのこと。様々なジャンルにトライしたが、「エッチングのチクチクした線の感じが自分に一番合っていると思った」そうだ。職人仕事のように黙々と作業を繰り返すのが性に合うらしく、銅版画以外では刺繍も大好きなのだとか。そもそも大学に進学したのは「ずっと女子校だったので、共学に行きたかったから」で、ガチガチのアーティスト志望ではなかった。読書好き、物語好きで、いつも空想を巡らせている夢見がちな性格だったという。「私はどうにも意志のはっきりしない人で、展覧会も何となく『やらなあかんのと違うかなー』って感じで始めました。だから、何で今まで続けてこられたのか自分でもよく分かりません。でも、無理ができないというか、画策とかできない性格なので、その分私らしい作品が作れているのかも」。多分に謙遜を含んだ発言ではあるが、自分にとって本質的な事柄のみを一直線に見つめられる性格は安井の長所というべきであろう。  

作品集『柔らかな春の海』より(2007年)

 また、作品1点1点にパステルで手彩色を施すのも安井作品の大きな特徴だ。「パステルは高校生の頃から好きでした(ちなみに高校時代は美術部に在籍)。制作を始めた当時は版画に手彩色してもいいのか疑問に思ったけど、自分はそうするのが好きだし、周囲も認めてくれたからいいかなって。パステルで手彩色する人って、他にはあまりいないと思う」。ちなみに、普通の版画は色の部分も版でプリントするので、同じ彩色といっても平板に仕上がりがちだ。安井独特のふんわりと柔らかい質感は、この手彩色による所が非常に大きいのである。
  現在、国内各地で年間10以上の展覧会を行う他、書籍や新聞の挿画、ポスター、カレンダーなどの仕事をこなし、充実した版画家生活を送っている安井。今後の目標を聞くと、「何か新たなことをしようとは思っていません。作品をもっと高めて生きたい」との答が。どうやら現在の作風に一層磨きをかけて行くことが当面のテーマらしい。また、最近は山登りに凝っているそうで、中でも山で出合う森の風景から大きな刺激を受けているそうだ。もし展覧会で森を描いた作品に出合ったら、そこには今の安井の心情が反映されていると思って見ていただきたい。

『ポツン』
(2008年/新作)

『大好きです』
(2008年/新作)

『諸国物語』表紙画
(ポプラ社/2008年)


2008年6月9日
(美術ライター 小吹隆文)

安井寿磨子プロフィール

安井寿磨子作品集『柔らかな春の海』
(遊タイム出版/2007年)

大阪府出身。1984年、平松画廊(大阪)で初個展。毎年春に個展を行っているギャルリプチボワ(大阪)をはじめ、国内各地で個展・グループ展多数。『柔らかな春の海』(遊タイム出版)をはじめ、作品集も多数あり。村上龍『69 Sixty Nine』、『すべての男は消耗品である』をはじめ、永倉万治、池上永一らの著作の挿画でも知られている。ポスターやカレンダーなどでも活躍。

活動情報
朝日新聞火曜日夕刊の連載「たまには手紙を」で挿画を担当中。
2008年6月19日〜27日、亀山画廊(静岡県静岡市)で個展。
2008年7月9日〜14日、ギャルリVEGA(大阪府池田市)で個展。
筆者プロフィール
小吹隆文
情報誌編集者を経て、2005年よりフリーの美術ライターになる。
主な執筆先は、京都新聞、美術手帖、ぴあ関西版、エルマガジン、artscape(ウェブ)など。
個人サイト「勝手にRECOMMEND」
URL http://www.recommend.ecnet.jp/
ブログ「小吹隆文 アートのこぶ〆」
URL http://www.keyis.jp/