そんな森村だが、新作では新たな領域へ自らを導こうとしている。現在ヴェニスで開催中の個展(『ヴェネチア・ビエンナーレ』の関連事業)、そして横浜美術館での個展に出品されている映像作品『なにものかへのレクイエム』がその正体である。本作で森村は、三島由紀夫、レーニン、ヒトラー(とチャップリンの『独裁者』のダブルイメージ)に扮し、彼らの歴史的場面を借りて自らのメッセージを言葉で伝えている。例えば三島由紀夫なら、1970年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げる直前に行った有名な演説を再現しつつ、現在のアート状況や若いアーティストに向けて痛烈な主張を浴びせる、といった具合。20世紀という時代を森村なりに総括すると同時に、混迷の21世紀に向けて何らかの指針を設けようというスケールの大きな試みである。これまでに比べ格段にメッセージ性が濃い作品なので賛否両論が噴出するかもしれないが、十分なキャリアを持つ美術家がリスクを恐れず新たな一歩を踏み出す勇気は大いに評価されるべきである。今後森村泰昌がどんなビジョンを我々に投げかけてくれるのか、期待はますます膨らむ一方なのだ。
森村泰昌「美の教室、静聴せよ」展 開催中〜9月17日(月・祝)まで 10:00〜18:00(金は〜20:00) 木曜休 ※入館は閉館の30分前まで 一般1,100円 大・高700円 中400円 小学生以下無料 横浜美術館 横浜市西区みなとみらい3-4-1 TEL 045-221-0300 URL http://www.yaf.or.jp/yma/