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#2「聞く(=音)×見る(=アート)→藤本由紀夫」
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聞く(=音)×見る(=アート)→藤本由紀夫

 「アート」と聞いて皆さんが想像するのはどんなものだろう。絵画、彫刻、版画、写真。少し詳しい人ならオブジェとかインスタレーション(空間構成)と答えるかもしれない。それらの共通項は何か。すべて目で見るということだ。アート=見ること。そんなの常識と多くの人は考えるだろう。しかし、聞くこと(=音)だってアートになるのである。名古屋出身で、大阪に拠点を置く藤本由紀夫は、音を使って素敵なアート作品を作り出す稀有な才能の持ち主である。

 例えば彼の代表作に「サウンド・オブジェ」と称される一連の作品がある。市販の安価なオルゴールを用い、歯の一部を折り曲げて皿の上に置いたり箱や台に据えつけたものだ。観客がネジを回すと作品は音を発するが、歯が欠けているためメロディは解体されている。複数のオルゴールを操作すれば即興のアンサンブルが生じるし、ネジを回す回数やタイミングによってそのバリエーションは無限になる。アーティストの創造と観客の行為、そして偶然性が一体となったマジカルな一瞬がその時生まれるのである。 
  また『EARS WITH CHAIR』という作品は、椅子の左右に2本のパイプが設置されたごくシンプルなもの。椅子に座り、パイプに耳を当てると、シュウォォォォンという渦を巻いたような音が耳に届く。我々はその響きに魅入られると同時に、日常の薄皮一枚隔てたすぐ隣にアナザーワールドが広がっている事実に気付かされるのである。
『EARS WITH CHAIR』(1/10モデル)2005年
『EARS WITH CHAIR』
(1/10モデル)2005年

1990年『STARS』
『STARS』 1990年

藤本由紀夫+稲垣足穂『TARUPHON』1988
藤本由紀夫+稲垣足穂
『TARUPHON』1988年

フジモト・デュシャン・モリムラ『窓』1989年
フジモト・デュシャン・モリムラ
『窓』1989年

 藤本は他にも、床に落ち葉を敷き詰めたインスタレーション、レコード盤を用いた版画やオブジェ、文字を素材にした平面作品など様々な作品を制作している。それらは視覚優位に傾きがちな既存のアートに対する軽やかな挑戦であり、音を通して空間そのものへと関心を至らせ、五感全てを使って世界を感知するためのツールでもある。彼は自作を「哲学的玩具」と呼ぶこともあるが、これは極めて本質を捉えたネーミングと言えよう。また、ほとんどの作品が市販品の組み合わせから成り、藤本自身の手があまり入っていないのも興味深い事実。創造行為の本質は深い思索にあり、秘儀を用いずとも作品に魔法をかけることは可能なのだ。
 名古屋出身の藤本が大阪にやってきたのは、1971年に大阪芸術大学音楽学科へ進学したのがきっかけ。同校が当時国内有数の電子音楽スタジオを持っていたことがその理由だ。以来彼は大阪を拠点に活動している。ジョン・ケージ、マルセル・デュシャン、ビートルズ、稲垣足穂、etc...、20世紀の様々な前衛芸術のエッセンスを独自のスタイルに昇華させ、今や国際的に活躍するこのアーティストが身近にいることを、我々はもっと自覚するべきだと思う。折りしも大阪、兵庫、和歌山、3つの国公立美術館で彼の個展が同時開催中。藤本由紀夫の世界を知る絶好のチャンスである。今まで彼のことを知らなかった人は、この機会に是非体験してもらいたいものだ。
2007年8月8日
(美術ライター 小吹隆文)

藤本由紀夫プロフィール

名古屋市出身。1986年の初個展以降、国内外で個展、グループ展など多数。中でも1年に1日だけの展覧会を10年間続けるプロジェクト『美術館の遠足』(西宮市大谷記念美術館、1997〜2006年)は大きな話題を呼んだ。最も有名な国際美術展のひとつ、『ヴェネツィア・ビエンナーレ』には、2001年に日本館から、2007年には国際展部門から出品している


展覧会情報

【兵庫】
藤本由紀夫展 philosophical toys [哲学的玩具]
6月30日(土)〜8月5日(日)
10:00〜17:00(入館は16:30まで) 水曜休
一般500円 高・大生300円 小・中生200円
西宮市大谷記念美術館
西宮市中浜町4-38
TEL 0798-33-0164
URL http://www9.ocn.ne.jp/~otanimus/

【大阪】
藤本由紀夫展 +/−
7月7日(土)〜9月17日(月)
10:00〜17:00(入館は16:30まで) ※金は10:00〜19:00(入館は18:30まで)
月曜休 ※月曜が祝日の場合開館、翌日休館
一般420円 大学生130円 高校生70円 中学生以下無料
国立国際美術館
大阪市北区中之島4-2-55
TEL 06-4860-8600(ハローダイヤル)  
URL http://www.nmao.go.jp/

【和歌山】
藤本由紀夫展 relations [関係]
part1:FUJIMOTO and
7月14日(土)〜9月24日(月)
part2:ハッピー・コンセプチュアル 杉山知子&藤本由紀夫 
7月14日(土)〜9月2日(日)
9:30〜17:00(入館は16:30まで) 
月曜休 ※月曜が祝日の場合開館、翌日休館
一般400円 大学生250円 高校生以下無料
和歌山県立近代美術館
和歌山市吹上1-4-14
TEL 073-486-8690
URL http://www.bijyutu.wakayama-c.ed.jp/


著者プロフィール
小吹隆文
情報誌編集者を経て、2005年よりフリーの美術ライターになる。
主な執筆先は、京都新聞、美術手帖、ぴあ関西版、エルマガジン、artscape(ウェブ)など。
個人サイト「勝手にRECOMMEND」
URL http://www.recommend.ecnet.jp/
ブログ「小吹隆文 アートのこぶ〆」
URL http://www.keyis.jp/