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人とエネルギーが集まり カルチャーが生まれる 界隈性の空間デザイン。 間宮吉彦


間宮吉彦というデザイナーは、人とエネルギーが集まり、カルチャーを生み出す空間を創出する才に長けたクリエイターだ。大阪ミナミ周辺の南船場しかり、堀江しかり、東京の各商業施設しかり。彼が手がけた商空間の周辺には、なぜかカルチャーをもった人々が集まり、磁場エネルギーが生まれ、ひとつの新しい界隈、街場の文化が形成されていく。そこには、どのようなスキームが存在するのか。今回はそのデザイン観について語っていただいた。

その界隈の潜在エネルギーを空間に取り込む“見えないデザイン”。

「ショップやビルなどの個々の商空間の前に、それを取り巻く界隈性や景観があって、それを意識したデザインが大切だと考えているんです」と話す間宮さん。そもそも界隈性とはどういうものなのか。「都市という単位になると大きすぎて訴求ポイントが漠然とぼやけるけど、界隈という単位で考えると自ずと見えてくるものがあるんです。たとえば大阪という都市なら、難波や心斎橋、梅田などの各界隈で形成されていて、難波と心斎橋と梅田ではまったく違うでしょ。その界隈にはそれぞれ歴史やストーリー、その土地独特のエネルギーがあって、そういうものを断ち切ってデザインしても、空間はうまく機能しないんですよ」。

kNot南堀江

miaviasophiescasa江坂

百貨店という商空間に界隈性を創出した有楽町・なんばマルイの環境デザイン。

こうした界隈性のデザインのノウハウを百貨店の環境デザインに取り入れたのが、大阪のなんばマルイや東京の有楽町マルイだ。なんばマルイのストアコンセプトは“ミングル”。個々のテナントショップがそれぞれ個性を主張しながら、全体的に融合して一つの集合体になるという発想だ。それはまるで個々のショップの集合体から自然発生的にひとつの界隈を形成していったミナミ周辺の街づくりの有機的プロセスを、百貨店の環境デザインに組み入れたかのようだ。一方、有楽町マルイのテーマは“周遊する楽しみ”。エスカレーターを中心に動線を放射状にレイアウトし、ショップをあえて入り組んだ配置にし、散策しながらお気に入りを見つけるショッピングの楽しさを演出した。迷ったら中心に戻ればいいし、そこからまた別のフロアに移動でき、歩く人自身が動線を自由にセレクトできる。これは東京の皇居周辺やパリの凱旋門周辺のようなヨーロッパの街づくりのレイアウトと同じ論理だ。またこれまでの百貨店の作り方ではなく、実際にお客さんが歩く環境を、ひとつの界隈としてデザインしていく新しい発想でもある。「でもね、こういうのって説明しないとわからないでしょ? だから自然と何かを感じて、なんだか楽しいとかまた来たいと思ってもらえれば、それで充分だと思うんですよ」とさらりと流す。しかし間宮さんのこうした“見えないデザイン”こそが、人、文化、エネルギーが集まる空間の仕掛けになっていることは、まちがいなさそうだ。

NAMBAMARUI難波

MARUIYURAKUCHO有楽町

一見何もないけど、関係性を感じさせる空間。そんなドーナツの穴のような空間ポケットが鍵。

ではこうした界隈性を生かすデザイン手法とは具体的にどういったものなのだろう。「ちょっと難しい言い方をすると、トポロジーという位相幾何学の概念で、空間を感じさせる関数みたいなものがあるんですよ。簡単に言えば、ドーナツの穴みたいなものです。ドーナツの穴って何もないけど、ドーナツをつくるためには必要じゃないですか。あの空間ですよ。そういった空間を作ることによって、形ができ、それをどんどん作りつづけていくと界隈というものができてくる。僕は設計というスキルで、そういう空間を具体的に形にしていっているわけです」。思わず難解さにとまどいながら神妙な顔つきになる私たちに、彼はこう語りかけた。「人と人との距離もね、ドーナツの穴みたいなもので、何もないけどきっと何かあるんでしょうね」。

GASHUtoutou北新地

大阪の空気や土壌に培われたクリエイティビティに大阪のブランド力が宿る。

大阪に拠点を置きながらも、東京を中心に海外にも活躍の場を広げる間宮さん。そんな彼に大阪のブランド力についてたずねてみた。「大阪はとくに建築、空間、プロダクトというモノづくりの分野で、優秀なクリエイターを輩出しています。大御所でいえば、建築家の安藤忠雄さんやプロダクトデザインの喜多俊之さんなど、世界的に活躍されているクリエイターもおられます。こうした大阪のブランド力って、大阪のもつ風土とか文化の中で自然と培われるものでしょうし、先輩後輩の関係性のなかで脈々と受け継がれ、育っていっているものだと思うんですよ。だから僕もいま大学で学生たちに専門分野のデザインを教えています。自分がやってきたことを伝えることで若いクリエイターが育って、また新しいものが創られていく。それって単純に楽しいことですからね」。間宮さんにとっては、伝えることもクリエイティブのひとつなのだ。「ただね、大阪人って大阪大阪って言いすぎるから、かえってマイナーなイメージになる。そのへんはそろそろ脱皮しないとね」。なるほど、大阪人はあまり声高に主張しすぎることで、せっかくのドーナツの穴の可能性を塞いでしまっているのかもしれない。「これからは人を動かしたりモノを売るために、デザインをどんな戦略で活かして戦っていくのか。そんな戦略的デザインの発想が大切です。大阪ももっと行政や企業がリードして、パブリックな分野に広くデザインを活用していく戦略的発想が必要でしょう。東京に比べてそうしたパブリックな装置が少ないですから、逆に可能性はあると考えています」と間宮さん。彼自身も今後そうした分野にも積極的に関わっていきたいと語ってくれた。

2008年5月20日
(よしみかな)
間宮吉彦 プロフィール

間宮吉彦
1958年 大阪生まれ。1991年(株)インフィクス設立。
全国で飲食、物販などの商業施設をはじめ、
あらゆるのジャンルの空間デザインを手がける。
2003年、上海事務所を設立。
大阪芸術大学デザイン学科 教授、
九州大学芸術工学部 講師。
主な著書に「STYLE INFIX」(商店建築社)。
「SPACES & PROJECTS X 100」(文藝春秋社)。


筆者プロフィール
よしみかな
コピーライター&インタビュア。有限会社かなりや主宰。2008年よりイエローキャブWESTとのタイアップで関西の文化人のキャスティング&プロデュースをするプロジェクト「文花人」をスタート。
「文花人」 http://www.bunkajin.jp