大阪万華鏡 デザインデザイン#1「MADE IN OSAKA,JAPAN -大阪から世界をめざして」
Cool(カッコイイ)という形容詞は、一般に大阪のイメージからはもっとも遠い言葉の一つではないだろうか。「大阪」は、ともすれば泥臭いまち、無味乾燥なビジネス都市というイメージで捉えられがちだ。都市のブランディングという観点から大阪を捉えようとするとき、なかば宿命的に突き当たる壁は、吉本新喜劇に代表されるナンセンス系のお笑いと、たこ焼きやお好み焼きに代表される庶民的な食い倒れのまちのイメージである。これらがある面で大阪を象徴するものであることは事実だろうが、「それだけではない」との思いを持つ人もまた少なくないはずだ。
大阪に拠点を置くSOZ CORPORATIONの社長・富永英輝氏も、そんな一人である。MADE IN
OSAKA, JAPANというフレーズに大阪への思いを込めつつ、自社製品のイメージ戦略にオーバーラップさせながら、Coolな大阪のイメージを発信している。洗練されたデザインで海外にも販路を広げながら、ごくさりげないやり方でOSAKAの名を世界に広めている、SOZの戦略に注目してみたい。
30代前半の若き起業家である富永氏は、印刷業を営む親類の会社から組み立て玩具事業を引き継いで、2004年に独立・起業した。社名のSOZは、“創造”の意。創造性は、SOZがもっとも大切にしているキーコンセプトだ。製品パッケージには、ART
TOY FOR CREATORS(クリエイターのためのアート・トイ)とある。
その製品カーペンターブロックは、よくあるキューブ状でなく平面仕様で、造形の自由度が高い。そもそもは子ども用の知育玩具というカテゴリーの中で流通していたが、パッケージのリニューアルを機にブランディングの道を進み始めた。あるデザイン系の専門学校生が、パッケージデザインをやらせてほしいと申し出てきたのだという。もとよりこの商品にはもっと可能性があるはずだと信じていた富永氏は、彼にデザインを任せた。その結果、大人の感性にも訴えかけるスマートなものへと生まれ変わったという。さらに、手軽に作れるキットや、作り方事例集のブックレットなど、このブロックの斬新さや洗練されたイメージを打ち出していった。
これが、当時の実感だった。そんな大阪を見るのは辛く、寂しい思いがしたという。
もともと歴史が好きで、歴史関係の本もよく読むという富永氏は、本来大阪はもっとダイナミックでポテンシャルに満ちた街だという思いがあった。そんな思いが、自社製品のパッケージやペーパーバッグに刷り込まれた一行、MADE
IN OSAKA, JAPANへとつながっていく。
富永氏の大阪へのこだわりは、MADE IN OSAKA,
JAPANの刻印だけにとどまらない。ブランド力の向上にともない、東京からの直営店出店オファーもあるが、断っている。「ただ単に“儲かる”だけなら、東京へ出店するメリットを感じない。」取り扱い店舗は全国各地で増えているが、直営店は今後も大阪だけにするつもりだという。むしろ、富永氏が意欲的にめざすのは世界のマーケットだ。東京経由でなく、大阪から直接世界へアクセスしたいという。
初めはスパムメールに混じって削除されかけた欧文メール。何となく気になってクリックしてみると、フランスからのビジネス・オファーだった。そこから始まった縁は、2006年5月、パリ装飾美術館の永久保存コレクション買い上げへとつながった。その他、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップなど海外15カ国で販売されている。
もっぱらコストの点から生産拠点を中国や東南アジアに移すことの多い、昨今の製造業の趨勢には疑問を感じるという。「名実ともにMADE
IN OSAKAにこだわりたい。それに、もしSOZが中国に生産拠点を置くとするなら、単なる製造拠点ではなく、そこに暮らす中国人自身のアイデアやスキルといった、ソフトパワーが活かされるような形態をこそめざしたい」と語る。
富永氏は、パッケージデザインから販売方法まで、自社製品のコンセプトとイメージの打ち出し方にひじょうに神経を使っている。そうしたブランドコントロールが功を奏してか、海を渡ったカーペンターブロックは、Cool(カッコイイ)と評されることが多いとのこと。それとともにCoolな大阪のイメージもまた広がっていってほしい、と語る富永氏。国際的にはほぼ無名の都市の部類に入るOSAKA。それだけに、MADE
IN OSAKA, JAPANの一行は、Coolな大阪のイメージの醸成に一役買ってくれるかもしれない。思いをもった一人ひとりの活動が大阪を変える―そんな可能性にエールを送りたい。