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第四十話 しまひょ

「○○しましょう」というのを、大阪弁では「○○しまひょ」と言う。
最も有名な用法は、「ぼちぼち行きまひょか」である。待合いなどで列車を待っていた大阪人同士が、「そろそろホームに行きましょう」という意思表示をするときには、たいていこの「ぼちぼち行きまひょか」を使うことになる。
位置づけとしては、大阪弁が得意とする「タメ口以上、敬語未満」という、曖昧レベルの言葉である。「行こうぜ!」では相手に対して失礼になるし、「行きましょう」では堅苦しくなってしまう。そのまんなかあたり、礼も失せず肩もこらない言い方が、この「ひょ」という大阪弁特有の助詞だ。

会議などで誰かが意見を言い、それに対して同意を示すときには、「そら、ええ案や。そうしまひょ、そうしまひょ」といった声が起きるのが、ディープな大阪人同士の会議風景である。
「わて、こんなアイデア考えましてん。どないでっしゃろ」
「なるほど、それええやんか。それで行きまひょ、そうしまひょ」
会話だけ聞いていると、どんなにクリエイティブなミーティングであっても、そうは聞こえないのが大阪弁の面白いところだ。
でも、そんな飄々とした会話のなかから、骨のある事業が次々と生まれてきたのも大阪である。チャレンジ精神を重んじるサントリーの企業姿勢として、受け継がれてきた有名な大阪弁「やってみなはれ」などはその代表だ。「やってみなさい」という単純な命令形ではなく、「はれ」という大阪弁がくっつくことで、そこに一種の"気持ちの共有関係"みたいなものが生まれる。
「しまひょ」という大阪弁も、そんな気持ちの共有作用がある言葉のひとつ。近すぎず、さりとて遠すぎず、互いのシンパシーがほどよい距離で伝わってくる、便利な大阪弁のひとつだ。

本日のスキット

浪鍋料理で会社の同僚同士の会話

A君 「さあB君、どのコースにする」
B君

「そやな、このバリバリ食べ放題ハリハリ鍋いうのはどうや?」
A君 「あほ、クジラばっかり山ほど食べて、どーすんねん」
B君

「冗談やん。この、バッチリおまかせてっちりコースいうのが、ええんとちゃう?」
A君 「よっしゃ、そうしまひょ。ほな仲居さん呼びまっせ」