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第三十九話 なおす

「なおす」は、第四話の「ほかす」で、少しふれたことがあるので、ご記憶の方もいるかもしれない。
「なおす」にはしまうとか片づけるの意味があり、「ほかす」には捨てるといった意味があるのだが、どちらも大阪以外のエリアではかなり通じにくい、外国語ドーゼンの大阪弁である点で共通している

「なおす」の用法としては、例えば、何か道具を使っていて用が済んだとき、そばにいる人に向かって、「これ、なおしとって」といった具合に使うのが最もポピュラーな例だ。これを丁寧に標準語的に言うと、「この道具を、もとあったところに片づけてください」といった意味になる。それを、「なおしとって」と一言で言うのだから、普通ではない。標準語圏の人などは、「え、修理するの?」「どこも壊れてないよー」ってな疑問にぶちあたって、頭がぐるぐるしてくるわけだ。

大阪人の母親などは、遊びちらかすクセがある人様の子供をしかるときには、「さあ、○○ちゃん、ちゃんとおもちゃを片づけましょうね」と最初は保母さん口調で言うのだが、なかなか言うことをきかないわがまま小僧だったりすると、だんだん腹が立ってきて、「こら!なんべん言うたらわかんねん。はよ、おもちゃなおさんかー!」と、一発かましてしまうことがよくある。お上品な母親に育てられた、わがまま小僧の場合、この大阪弁一発で縮みあがってしまい、すぐに言うことをきいたりする。そういう意味でも大阪弁は、便利な言葉なのである。

本日のスキット

浪花の料理人と東京から修行にきている弟子の会話

料理人 「おーい、A君」
弟子

「はい師匠、なんですか」
料理人 「この包丁な、よう研いでから、なおしとってくれるか」
弟子

「え?研いだあと、どこか修理するんですか?」
料理人 「えーと、そうそう、ここにひび割れあるから、
それをバンドエイドで貼りあわせてな……って、ちゃうがな、ちゃうがなー。
ひとりでボケてる場合と、ちゃうがなー」
弟子

「はあ、でもいま師匠が、なおしてくれるか、とおっしゃったので」
料理人 「そのなおすとちゃうねん。ここで言うなおすとは、しまうことや」
弟子

「なーんだ、そうだったんですか。またひとつ浪花料理の秘伝を憶えました。キラリ!」
料理人 「なんや?そのキラリっちゅうのは」
弟子

「はい、向学心に燃える輝く瞳です」
料理人 「……………」
弟子

「どうかしましたか、師匠」
料理人 「君の場合、まずその性格をなおすのが、先決やな」