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第三十二話 ややこしい

「ややこしい」は、標準語でもよく使われる言葉だ。こみいっていて、わかりにくい、複雑で、めんどうなことを、意味している。
東京などではよく、「まったく、ややっこしい話だな」という具合に、歯切れ良く言うケースが多いのではないだろうか。大阪弁ではやはり、まったりしている。

もちろん大阪弁でも、標準語と同じニュアンスで使うこともある。
例えば、女性が縫い物などをしていて糸がこんがらがると、もつれをほぐそうと一生懸命奮闘することがある。しかしよけいにこんがらがって、にっちもさっちもいかなくなってしまい、ついにヒステリックに叫ぶときの、「あー!もー!ややこしなー!」というのは、同じ意味合いの「ややこしい」である。

ところが大阪では、もうひとつの意味がある。怪しい、裏がある、うさん臭いといった、「露骨には言えないけれど、実は……」といった、ネガティブな含みを持たせるときに使うのである。
例をあげると、倒産しそうな会社があると、「あそこの会社は、ややこしそうや」と情報交換をしたり、こっそり社内恋愛をしている男女がいたりすると、「あの二人なんや、ややこしいそうやで」と噂話をしたり、といった具合だ。

飲食店などでも、ぼったくりなど悪い噂のある店に対しては、「あの店は、ややこしいから、やめとき」となる。また、宴会幹事などを進んで引き受けながら、お勘定をごかまして上前をはねるようなヤツは、「あいつは銭勘定のややこしいやっちゃ」となる。
同じ言葉でも、TPOで変化する大阪弁は、一筋縄ではいかない、ややこしい言葉なんでおます。

本日のスキット

社長と社員の会話

社員 「社長、丸菱商事と取引できそうでっせ」
社長
「お、そらでかした。で、決済条件はなんや」
社員 「はい、90日の手形です」
社長
「あかん、やめとけ」
社員 「え、なんでですか」
社長
「あの会社、今なんや、ややこしいみたいや。手形はやめとった方がええ」
社員 「そうですか。やっぱり、現金以外は厳禁でっか」
社長
「あほ、倒産されたらシャレにならんぞ」