第二十八話 すんまへん
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標準語を使う人が言っても、まったくサマにならない大阪弁がある。この「すんまへん」は、その代表格ではないだろうか。
標準語で言えば「すいません」で、東京弁になると「すんません」となる。語源は「物事にかたがついていない、済んでいない」ことから来ている。
標準語で丁寧に言うと「すみません」が正しい。外国人のための日本語講座で、まずはじめに憶えさせるのがこの日本語。「スミマセン、これはいくらですか?」「スミマセン、駅にはどう行けばいいですか?」といった調子で、英語における「エクスキューズミー」や「プリーズ」「サンキュー」と同じような万能語として教えている。
用法は、「すんまへん」でも同じだ。「ありがとう」「すみませんね」という感謝の意と、「ごめんなさい」「もうしわけないです」という謝罪の意の2通りで、臨機応変に使い分けている。
例えば大阪では、ご近所さんから、おかずのおすそわけをしてもらたりすると、「やあ、いっつも、すんまへんなア」といった会話で謝意を伝える。また、人が頼み事をしてくれたりすると、「すんまへん、おおきに」と礼を言ったり、何か失敗をしでかしたりしたら、とにかく「すんまへん、すんまへん」と、謝罪を連発する。
まさに、英語の「エクスキューズミー」「プリーズ」「サンキュー」と同じぐらいの割合でよく使われる言葉だ。
大阪では、年輩の女性や商人系の男性は、この「すんまへん」をよく使うが、若い人たちは、どちらかというと「すんません」をよく使う。なぜかというと、「すんまへん」は、たとえ関西人といっても、大阪人らしからぬ人間が使うと、相手をこばかにしているように思われる怖れがあるからだ。それに、年寄り臭い言葉でもある。
だから、「へん」ではなく「すんません」を使うのだが、どちらにしてもイントネーションは、語尾にウエイトがかかる大阪弁である。
「すんまへん」は、軽み(かろみ)を重んじる大阪人らしい軽妙洒脱な言葉である。人にものを頼むときでも、「すみませんが○○をお願いします」と言うよりは、「すんまへんけど、○○してもらえまっか」の方が、軽くてより親近感がある。
でも、関東の人たちは、この軽薄でどこかウソくさい上方流の言い方が気に障るようで、「江戸っ子は すんまへんなが気に入らず」という川柳も残されている。
大阪人は、そういうときでも、「や、すんまへん、気に障りましたか、堪忍したってください」てな調子で、ゴーイング・マイウエイなんです。
本日のスキット
店主と客の会話
客 | 「ちょっと、ご主人、こないだ売ってもろた布地、あっちゃこっちゃにキズがあって、お客さんにエライしかられましたで!どないしてくれます」 |
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店主 | 「え、ほんまでっか。それは、えらい申し訳ないことしまして、すんまへん!」 |
客 | 「すんまへんで済んだら、警察いらんがな」 |
店主 | 「へえ、すんまへん。なんとお詫びしたら、よろしのか…」 |
客 | 「あんたさっきから、すんまへんばっかりやな、なんかほかの言い方でけへんの」 |
店主 | 「へえ、すんまへん」 |
客 | 「もうええ、銭返して」 |