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第二十五話 ほんま

言葉は生きものなので、時代時代で変化していく。いま、日本中を席巻してしまった話し方のひとつに、「語尾上げ言葉」がある。
「○○みたいな感じィ?」「○○じゃないですかァ」などなど、名詞や体言止めの言葉の語尾を上げておけば、「間違ってたら許してね」「責任は持たないよ」風のニュアンスが込められるので、使う側にとってはたいへん都合が良い。だって、いい加減なことでも、言い放題できるじゃないですかァ。

大阪でも、語尾上げしゃべりは蔓延している。でも、こういうしゃべり方を潔しとしない、血気盛んな浪花っこもいる。どっちかといえばこのしゃべり方は東京系なので、「け、東京モンの言葉なんか使えるかあー!」という、関西弁イズムの強い人が多いようだ。
彼ら的には「どっちにでもとれるような、中途なしゃべり方すんなー、ボケー!関西人やったらなあ、一か八か、命かけてしゃべらんかあー」といった、横山やっさんっぽい、思考が根底にある。しごくまっとうで、男らしいのである。
こうした、東京発の言葉文化には、抵抗を見せる大阪人であるが、でも本来この語尾上げ言葉は、上方が本家だったはずだ。こういう新説を投げかけると、関西人なら自然とここで、「ほんまア」という合いの手が入る。
ほら、語尾上げ、でしょ。

「ほんま」とは、漢字で書くと「本真」。本当と真実という同意語がかけあわさった、強調語である。本当であることやそのさま、真実を意味している、関西地方特有の表現だ。
用法としては、「ほんま、びっくりしたわ」とか「ほんまの話やで」「これ、ほんま。マジやで」といった強調としての使い方が多い。もうひとつの代表的な使い方が、語尾上げする大阪弁独特の繊細な用法である。
例えば、相手が面白い話をすると、「ほんまア」と、アの部分に軽く語尾上げをつける「ほんま」で返答して、「へえ、おもろいやん」といった意志を表明する使い方。あるいは、相手がちょっと眉唾の話をすると、「ほんまかァ」と、「かァ」の間で語尾下げ語尾上げをリエゾンさせて、「それウソやろ」といった疑念を表現する用法など多彩。
こんなふうに、「ほんま」という言葉は、かなり微妙なニュアンスが短い言葉の中に込められるので、これが体得できたら、もう立派な大阪人といえる。

大阪人は、角が立つことを極端に嫌う。だから、商談を断るときにも、「考えときまっさ」と、含みを持たせる。実質的には「ノー・サンキュー」なのだが、こうした曖昧な返事なら、相手もキズつかずにすむ。大阪人は昔から、どっちにでもとれる曖昧模糊とした部分を、コミュニケーションの要所要所で散りばめてきた、気配りの民族なのである。

本日のスキット

居酒屋で客と主の会話

「今日は、何がうまいねん?」
「へえ、ちょうど旬のハモがはいっとりま」
「お、ほんまかいな、それええやん」
「海老もええのが、はいってまっせ」
「うわ、どっちも食べたいなあ。悩むなあ」
「ハモも一期、海老も一期ってね」
「なんや、それ?」
「人の一生、身分や境遇に多少の違いがあっても、そんなもんはたいしたことやない、というたとえですな」
ほんまやな。今日はご主人、ええこと言うやん」