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第十話 ええかげんにしいや

大阪弁では、悪ふざけが過ぎる人のことを「いちびり」という。あるいは、四六時中アホなことばっかり言うやつも、そんなふうに呼ばれる。
関東風に言うと、「いたずらっ子」とか「ふざけ屋さん」みたいなニュアンスでどこか可愛いムードが漂うのだが、「イチビリ」と言われると、腹の底で「あほ、あほ、あほ〜」と言われているみたいで、ちょっと悲しい。

そういういちびり人間をたしなめるときに、大坂人はよく、「ええかげんにしいや」という言い方をする。「もうそれぐらいにしときなはれ」「ふざけてばっかりおったら、しまいに怒りまっせ」という、信号である。
このセリフ、浪花のおかあはんたちにビシッと言われると、かなり怖い。悪さをしている子どもをしかるときなど、気合いの入った口調で、「アンタ!ええかげんにしいや!」と雷を落とされると、びくっとくる。関東系の人などは、聞いただけで直立して、自分のことでもないのに「はい、すみません」とあやまってしまうほどの迫力である。やんちゃな子ども時代を送った人なら、身におぼえがあるはずだ。

大阪ではこのセリフは、もうひとつ重要なシーンで使われる。そうです、しゃべくり漫才のおしまいに、「キミ、もうええかげんにしいや」というアレですね。軽くはたかれながらこれが入ると、相方は「失礼しました!」といって、二人で一緒におじぎをして、舞台のそでに引っ込んで行く、という黄金のパターンです。
でも、これはあくまで舞台の上のことであって、大阪の人がみんな、あんなことをしているわけではありません。

本日のスキット

なにわの夫婦の会話

「おーい、おかあちゃん。酒くれ、酒」
嫁はん 「なに言うてんの。さっきからアンタ飲みすぎやで」
「ええから、もう1本つけてくれ。な、後生やから」
嫁はん 「後生やから言うて、アンタはいっつも、一升飲んどるやないか」
「お、おもろいこと言うなあ、かあちゃん。ええやないか、もう1本おくれ」
嫁はん 「あほ、何言うてんの。アンタほんまに、ええかげんにしいや