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第七話 ほな

最近話題になっているのが、某ビールの宣伝で、中山美穂さんが怪しい大阪弁を駆使しながら、ネギ焼きをひっくり返すTVCM。「ええか、よう見とくんやで」とか「なーんで、わかったん」とか、コケティッシュな味が出ていてナイス。ああやって東京美人が使うと、ふだん何気なくしゃべっている言葉が差異化されて、「大阪弁て、こんなオモロかったんや」と、驚かされますね。
というわけで今週は、大阪人ならふだん何気なく使っている「ほな」を取り上げてみました。ほな、ぼちぼち、行きまっせ。

「ほな」は、大阪弁のなかでも、使いでのある便利ワード。シチュエーションに応じて、いろいろ使い分けることができるので、これがマスターできていれば、立派な関西人といえる。
外食シーンでよくあるのが、注文した料理が品切れになっているケース。お店の人から「お客さん、すんません、日替わりランチはもう品切れですわ」と言われると、すかさず「ほな、こっちの定食でええわ」と切り返すのが、一般的な大阪人のパターン。関東圏なら「じゃ、定食でいいよ」となるのが、大阪では「ほな」になる。「ジャ」という歯切れの良い江戸に対して、「ホナ」という空気の抜け方が、いかにも上方である。九鬼哲学風にいうと、張りと意気地が通底している江戸の粋の文化に対して、察しや含みを基調にした上方の甘え文化という読み方もできそうだ。

「ほな」の用法でいちばん多いのは、英語でいう「well」とか「then」にあたる使い方。「それでは」「しからば」という、意味が込められている。会議が長引いて煮詰まったとき、大阪では、最後にリーダーらしき人が「ほな、こうしよ」と、発案して、会議を締めることがよくある。こういうときの「ほな」は、人望のあるひとが使わないと、効果はない。
あるいはまた、いろいろ手をつくしたけど、「仕方ない」というニュアンスでも使うことができる。「ほな、もうええわ」といった使い方だ。彼女がすねて、「ほな、もうエエ!」と、ぷいっと顔をそむけると、彼氏が「そんなん言いないな、機嫌なおしてえな」ととりなしをしたりする場面だ。
一方では、たった二文字の言葉だが、万感の思いが込められるときもある。親しい者同士、永の別れになる場面。「ほなナ、身体に気イつけてな。頑張るんやで」「ほな、もう行くで、汽車が来よったさかいにな」と、大阪の船場に丁稚奉公に送り出す息子と母親の別離シーンなんかでこれを使うと、大阪人の涙腺はもうウルウルくるのである。

友人同士が日常的に、軽く別れの挨拶をするときにも、「ほな」は軽快に使われる。「ほな、明日」「ほな、また」といった具合で、英語でいう「see you」「see you later」などの成句と同じ。 「そろそろ」という頃合いの意味にも使われる。「ほな、ぼちぼち行こか」というパターンがそれ。 というわけで、ちょうど紙幅もつきましたところで、ほな、サイナラ。

本日のスキット

立ち食いうどん屋でおばちゃんと客の会話

「おばちゃん、きつねうどん、ちょうだい」
おばちゃん 「あ、ごめん、品切れや。ちょうどいまお揚げサンが切れてん」
「さよか。ほな、たぬきでええわ」
おばちゃん 「そやから、油揚げがもうないんよ」
「そうか、残念やな。ほな、きざみうどん!」
おばちゃん 「そやから、さっきから、油揚げが品切れやちゅうて、言うてるやろ!」
「じょーだんやん、おばちゃん。怒りないな」