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第六話 しゃあない

「仕方がない」「仕様がない」というのを、大阪の人は普通「しゃあない」と言う。「そうか、そらしゃあないな」とか「もうええ、しゃあないわ」といった諦念の時に、よく使う。しかしこれは案外含蓄のある言葉で、人生の酸いも甘いも知り尽くした大人が使うと、いろいろな意味が含まれてきて、味がある。

例えば、英語でいうと、「so it goes」=「そういうものだ」というニュアンスが含まれることがある。関西弁ハードボイルドな用法で、ちょっといい感じだ。

あるいは、スペイン語の「ケ・セラ・セラ」といった意味が込められる時もある。「なるようになるさ」という、ラテン系のポジティブな達観である。いま、ウルフルズが唄ってヒットしている「明日があるさ」も、これに近い。「人事を尽くしたら、じたばたしてもしゃあない、あとはなるようになるがな」というラテン大阪式合理主義がそこにはある。

「シャーナイ」という音感から、どちらかというと、やさしげな大阪弁に思われがちだが、これを最後の言葉として、開き直った時の大阪人は、すごみがある。河内の地侍、楠木正成しかり。大阪のひとではないけれど、最後まで豊臣方に忠義をつくした真田幸村しかりである。
二人とも、きわめて冷静かつ現実的な状況分析で、歴戦を勝ち抜いてきた知将たちだが、歴史の歯車は最後には彼らを勝ち目のない戦へと追い込んでいく。実務家だけに、自分たちの負けは見えている。だから、本当は戦いは避けたい。しかし、運命はどうにもならない。そこで彼らが選んだのは、「よっしゃ、しゃあないわい!」という思考の切り替えである。「いっちょ、一泡吹かせたろか!」という、大阪人特有の開き直りが発動する。こうなった時の、大阪人は、タフで手強い。
事実、茶臼山に陣を張っていた徳川家康は、幸村の熾烈な突進から逃げに逃げて生き延び、生涯で最も恐怖にまみれた合戦として記録に残している。正成もまた、雲霞のごとき敵陣に斬り込んでいき、壮絶な討ち死にを遂げ、日本一の忠臣として後世に名を残している。

普段は、あほなことを言いながら、なんでも笑いにしている大阪人だが、「やるときは、やりまっせ」というのが、この言葉には言外に含まれている。いかにも大阪らしい現実主義と、最後の最後まであきらめへんで!というダイハードな性根が感じられて、噛めば噛むほど味がでる言葉だ。

本日のスキット

ある夫婦の会話

「なあアンタ、こないだ買うたセーター、一回洗ろたら、メチャ縮んでしもた」
「なに、まだ1回しか着てへんやんか」
「そやねん、お店に文句言いにいこか」
「ところで、なんぼで買うたんや、そのセーター」
「えっと、バーゲンで980円やったわ」
「そら、おまえ、しゃあないで」