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第一話 おおきに

「おおきに」は、英語でいう「サンキュー」、標準語でいう「ありがとう」のこと。口語的に表記すると「おーきに」が近い。これは、大阪弁の万能語なので、体得すると非常に使い勝手が良い。とにかく、会話の最後に「おーきに」をつけておけば、ものごとが円滑にすすむという点では、英語の「サンキュー」とか「プリーズ」に近いかもしれない。

もともとは、おおいに、たいへん、とても、といった分量を表す言葉で、「おおきに、ありがとう」「おおきに、ご苦労さん」と下に言葉がついていたのだが、それがだんだん省略されて、独立使用が一般的になった。感謝を表す言葉としては、大阪の飲食店では、勘定をすませたお客さんを見送るときに、日常的に使われる。「おおきに、またのおいでを…」といった使い方がスタンダード。あるいは、友人に食事をおごってもらったときなど、「おおきに、ごっつぉさん」と、軽く謝意を表すのも大阪的な用法だ。

恐縮している気持ちを表すのにも、おおきには使われる。何かしくじりをしでかして、相手に許してもらったときなどは、「おーきに、すんまへん。もう二度としまへんから…」という具合に、拝み倒すようにこのフレーズが使われる。こういう場合、「おおきに」と「すんまへん」は対句として運用されることが多く、人に頼みごとをするときなどは必ず、「すんまへんなあ、忙しいのに…」といった切り出し方をする。相手が首をタテにふってくれたらすかさず、「おーきに、おーきに、すんまへんなあ」となるのである。

このように、万能の言葉ではあるが、逆に大阪弁がきちんと体得できていない人が使うと、人を小馬鹿にしているように思われて、逆効果になることも。また商談などの場で、「おーきに、考えときまっさ」と使われるのは、「ノーサンキュー」の意味が多分に含まれている。大阪弁のニュアンスがよくわかっていない人は、これを商談成立と勘違いすることがあるので、気をつけたい。大阪弁は、そういう意味では諸刃の刃なのである。

本日のスキット

居酒屋でお店のおっちゃんと客のおねえちゃんの会話

お店のおっちゃん 「いらっしゃい。おねえちゃん、何しよ?」
客のおねえちゃん 「うーん、そやな。このヒジキの炊いたんもらおかな」
お店のおっちゃん 「よっしゃ。おねえちゃん、べっぴんやから、おまけしとったろ。ヒジキは美容にええねんで」
客のおねえちゃん 「わ、ほんま!おーきに・・・・、おっちゃん」