#4「大阪の“食”と“芸能”が出会う”とんど祭り”」
#3「濃く、苦く、深い…大阪名物のストロング・コーヒー」
#2「なにわ野菜のブランド化、その取り組みと意義」
#1「大阪の胃袋をたずねて−大阪市中央卸売市場探訪」
 
トピックス
 
メディア
 
大阪万華鏡
デザイン
なにわ野菜のブランド化、その取り組みと意義


 全国各地で「伝統野菜」をブランド化させる取り組みが広がっている。いち早く取り組んだ京野菜は有名だが、大阪でも、天王寺蕪(かぶら)・毛馬胡瓜(けまきゅうり)・勝間南瓜(こつまなんきん)・吹田慈姑(くわい)・泉州玉葱・田辺大根など、形・味・食感に強い個性を持った「なにわ野菜」が注目を集めている。
  高度成長以降、生産量が激減し、忘れ去られかけていたこれらの野菜の発掘・復活に尽くしてきた一人が、『浪速割烹 喜川』『天神坂上野』の元店主で料理研究家の上野修三氏。氏は古い文献を読みあさり、今ではほとんど知られていなかった「なにわ野菜」を求めて、大阪の畑を歩き続けた。細々と栽培されている伝統野菜を見つけ、生産者の人たちの話を聞き、素材の特質を知り、そして積極的に自身の料理に取り入れることで、なにわ野菜を料理関係者や生産者、市場関係者、学者らに紹介してきた。
生産者支援のシクミづくり
 こうした取り組みの結果、さまざまな伝統野菜が復活したが、一方で、栽培が難しい、手間がかかる、コストが高くつくため市場競争力が弱い、生産者が高齢化し後継者が不足している、といった課題も浮かび上がってきた。上野氏は「浪速魚菜を食べよう会」(後に「浪速魚菜を守る会」)の一員として生産者支援を開始。主に割烹料亭やフレンチ・イタリアンのレストランの食材として、伝統野菜が流通する仕組みを作り上げていった。会員数は一時200名近くとなり、その活動は現在、NPO法人「浪速魚菜の会」(2003年発足、代表理事・笹井良隆)に受け継がれている。また大阪府・市も伝統野菜の認証、販売店の紹介、伝統野菜を使った加工品創出事業に取り組みはじめている。
なくなりつつある伝統野菜
 伝統野菜を広めていく運動は、昔からその土地に根付いてきた固定種の野菜を残していく運動でもある。
私たちが普段食べている作物の大半はF1種(一代交配種)と呼ばれる改良品種で、病害虫に強くて収穫量も多く、色や形がよくて見栄えがいいため1960年代に急速に普及した。大量生産が可能になったことで生産コストも下がり、現在では割高の在来種の伝統野菜を栽培する生産者はかなり少なくなっている。その土地に合った、食べて美味しい、安心して食べられる野菜を取り戻すことができるかという課題に、私たちは直面しているのである。
伝統野菜のブランディングとその意義
 近年、スローフードブームの中で、伝統野菜が息を吹き返しはじめている。それに歩みを合わせるように、全国的に農産物のブランド化の動きが強まってきている。先駆けは京野菜。京都府・市は1970年代後半から伝統野菜の産地育成に乗り出し、1989年よりブランド京野菜の認証を始めている。現在では「九条ねぎ」「聖護院(しょうごいん)だいこん」「賀茂なす」など21種類が認証を受けている。その後加賀野菜、なると金時、博多万能ネギなどのブランド野菜が各地に誕生、農産物は新興産地を含めブランド化時代を迎えている。

農産物のブランド化は今や、商品のイメージアップだけでなく食の安全・安心、知的財産保護などを含めた地域活性化戦略として展開されつつある。伝統野菜をブランド化することは、その地域の“食”を守っていくことに他ならない。なにわ野菜についても、生産・流通面での課題の克服とさらなるブランド化を、より多くの人たちのニーズを反映した形で進めていくことが求められている。


@勝間南瓜(こつまなんきん)

現在の大阪市西成区玉出地区(旧勝間村)が発祥のかぼちゃ。両手ですっぽり収まる小ぶりな形が特徴。
A毛馬胡瓜(けまきゅうり)
大阪市都島区毛馬町が発祥とされる半白系の黒いぼきゅうり。長さ30cm以上にもなり、頂部から3分の2は淡緑白色となる。パリッとした歯ごたえと、柔らかくてジューシーな旨みある果肉と果頂部の苦味が特徴。
B馬場茄子(ばばなす)
貝塚市馬場地区で栽培されている水茄子の原種。皮がとても薄くて柔らかく、エグみが少なく、持ち味が濃い。
C鳥飼茄子(とりがいなす)
摂津市鳥飼地区で栽培されている。この丸茄子の持ち味は、皮の繊細な柔らかさと煮崩れしない果肉の緻密さにある。
D玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)
江戸時代に大阪城玉造門付近で作られていた。果実は長大で、濃緑色で白の縦縞があり、現在は主に漬物用として生産されている。

■上野修三著「なにわ野菜 割烹指南」(2007 クリエテ関西)
関西の食雑誌「あまから手帖」の連載「なにわ旬菜 味ごよみ」をまとめた一冊。上野氏が府下の生産者を訪ね歩き、見つけ出し、自身の料理に取り入れてきた「なにわ野菜」37品目、上野氏の割烹技術の粋を集約した128のレシピを紹介した、「なにわ野菜」初の事典&料理書
◇上野修三(うえの・しゅうぞう)
1935年大阪府生まれ。15歳で食の道へ。77年に大阪・法善寺横丁に「浪速割烹 喜川」を開店。94年には「天神坂上野」を構えたが、03年に惜しまれつつ閉店。現在、食の随筆家として活躍中。「浪速魚菜の会」会員。

■関連リンク
NPO法人「浪速魚菜の会」 代表理事:笹井良隆
良質な浪速の伝統魚菜を大阪の地に今一度復活させるとともに、これを広く普及させることを目的に、試食会・勉強会の開催、なにわ野菜販売サービス、食文化専門誌「浮瀬(うかむせ)」の発行などを行なっている。
URL:http://www.ukamuse.jp/
2007年10月3日
(大阪ブランド情報局 山納 洋)