バイオと聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。遺伝子操作、クローニング、新薬開発…?それは最先端で、しかも少々私たちの実生活から遠いもの、というのが一般的なイメージではないだろうか。しかし、その言葉の意味が象徴するように、バイオ(生命)は実はとても身近なところで生活を支えている。しかも大阪はバイオと、歴史的にも長いつながりを持っているのだ。生活とバイオ、そして大阪とバイオの深いつながりについて、遺伝子治療学の第一人者、森下竜一さん(大阪大学大学院医学系研究科教授)に聞いた。2回に分けてお届けする。 |
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森下さんの専門は臨床遺伝子治療学。従来、治療が難しいとされてきた病気について、主に遺伝子情報を活用した新しい治療法を研究している。こういうと、素人にはとても敷居が高そうに思えるが、バイオには意外と生活に密着した面もある。特に大阪は、道修町など歴史的な蓄積もあり、実はかなり身近なところにバイオがあるというのだ。
「バイオには二つの側面があります。一つは国際的あるいはグローバル(普遍的)な部分、もう一つは身近な生活を支えるものとしての技術。前者は、例えばある国で開発された薬は世界中で使われるわけで、そういう意味でバイオの技術や製品には普遍性がある。一方、身近な生活に目を向けると、最近よく言われる機能性食品や健康食品など、そうとは意識していなくてもバイオと結びついたものはたくさんあるんですよ」と森下さん。
また、「道修町に代表されるように、大阪は江戸時代以来、薬の本場でした。大阪には今も世界的な製薬企業の本社が多くありますが、それらはこうした歴史に連なるものです。また、灘や伏見など近隣エリアには、やはり長い伝統を持つ醸造業の歴史があり、これも今日の大阪のバイオを支える基盤になっています。」
近年開発が盛んな郊外の学研都市ができるはるか以前から、大阪はバイオシティだったともいえる。こうした歴史的な厚みを持つ大阪は、海外からの評価も高いという。
「こんな風に豊かな歴史的蓄積の上に、最先端のバイオがあるという地域は、世界でもまれですよ。これは、大阪、関西のバイオの大きな特徴といえます。実際、海外の世界的な製薬企業で、大阪に本社を置く企業も多いですしね。」 |
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森下竜一さん |
彩都バイオインキュベータ(大阪府茨木市) |
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さて、長い歴史を持つ大阪のバイオだが、その強みはもちろん歴史だけではない。バイオベンチャーなど最先端の領域においても、大阪は健闘している。バイオの場合、研究の着地点としては、実際に人々の生活や生命に益をもたらす形で社会に還元されていくことが求められる。難病の治療薬開発などに取り組む森下さんも、自ら大学発ベンチャー企業を立ち上げ、取締役を務めている。最近の成果として、足の壊疽を引き起こす閉塞性動脈硬化症の治療に効果のある世界初の血管再生薬の開発が今年の6月に臨床治験を終了し、約2年後には同社から発売される予定である。こうした大学発ベンチャーが大阪はじめ関西には多く、特にバイオ系は大学発ベンチャーの40パーセント近くを占めるという。
ベンチャー企業立ち上げの経緯に関して、森下さんはこう語る。
「実際に薬にするには企業の力が必要です。それで、いろいろな会社に相談を持ちかけたのですが、なかなか助けてもらえなくて(笑)。…じゃあ自分たちでやろうというわけで、1999年12月にアンジェスMG株式会社を立ち上げました。」
イノベーティブな領域は、なかなか大企業ベースのビジネスに乗りにくいため、大きな会社が手がけるのは難しい。同社では研究成果の製品化のみならず、日本では手に入らない難病治療薬の輸入販売など医療に関するインフラ整備にも取り組んでいるという。[Vol.2に続く] |
2007年10月18日
(大阪ブランド情報局 小村みち) |
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森下竜一(もりしたりゅういち)
大阪大学大学院医学系研究科教授(臨床遺伝子治療学講座)。アンジェスMG株式会社取締役・創業者。岡山県出身。医学博士。昭和62年大阪大学医学部 卒業、平成3−6年 米国スタンフォード大学循環器科研究員、大阪大学助教授大学院医学系研究科遺伝子治療学を経て、平成15年より大阪大学教授大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学(現職)。経済産業省構造改革審議会知的財産部門委員、文部科学省学術科学審議会委員などを兼任。平成15−19年まで知的財産戦略本部本部員(本部長 内閣総理大臣)を務める。 |
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■参考HP
大阪大学大学院医学系研究科 http://www.med.osaka-u.ac.jp/index-jp.html
アンジェスMG株式会社 http://www.anges-mg.com/
Doctors Blog(医師が発信するブログサイト) http://blog.m3.com/ |
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