ディスカッション
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堀井良殷さん: 脇田さん、大阪の伝統とか芸能とか文化というものを、世界に向かってこれが大阪ブランドだと誇りを持って我々は語っていきたいのですが、総括してお話いただければありがたいのですが。
脇田修さん: 大阪はやはり町人文化ですね。だから町人が作った文化で、侍というのは40万人の人口のうち、1500人しかいない。しかも来ている蔵屋敷の侍は、大阪町人に頭を下げる役割ですから、いわば大阪の町は全く町人の天下であったということです。それが生み出した文化というものがあるわけで、芸能でいえば、天王寺の雅楽から始まって新しい近世のいろんなものがあるわけですね。

私は対談をしてこれは負けたと思った人がお二人おられます。
一人は米朝師匠です。大阪の話を昔やりまして、よう知っているのに私は本当に恐れ入りました。もう一人は、旭堂南陵師匠で、大阪の陣となると本当によくご存知です。やはりそういう文化の厚みみたいなものはあるのではないかと思います。

教育の方で言いますと、適塾とか懐徳堂というのが作られまして、これは町人自身が作りました。実は大阪大学というのも大阪の人が作ったのです。文部省は「京都に帝国大学があるから、大阪なんぞにはいらない」と言っていたのですが、それを大阪の方がずいぶん文部省に日参して運動されて、「特別創設費はいらない」とまで言って、大阪の人が自力で作ったのです。そこがよその国立大学と違うところです。大阪が大事なことを生み出しているというのは、私は誇りにしたらいいことじゃないかと思います。ただちょっと残念なことに、今は大阪の街の中が非常に空洞化しています。私は曽根崎小学校の出身で40人の友達がいますが、今も小学校区に住んでいる人はいません。大阪の旧市内の中には4年制大学もなくなってしまいました。

だから、人も帰し、大学も帰し、大阪を豊かにするようなそういう場を作れば、それがまた大阪の文化を生み出すのではないかと思います。
堀井良殷さん: コシノさんはいかがですか。
コシノヒロコさん: 私は上方歌舞伎の扇雀さんの時代から鴈治郎さんに憧れて、子どもの頃から歌舞伎・文楽を身近に見て育ってきましたが、本当にすごい色気を上方歌舞伎の中で感じるわけです。特に鴈治郎さんが演じておられる近松の世界、心中物の世界、あの中の女形の姿というのは鳥肌が立つくらい好きだったのです。そういうものが自然に私の仕事に影響を与えています。

私はこの日本イコール大阪という印象をもっと訴えたいのです。ジャポネスクという一つのブームが起きてから30年くらいになりますが、同じジャポネスクでも大阪と東京とでは感じ方も表現の仕方も違います。私は、はっきりとした形で大阪の印象が表現できればいいなと思います。そして世界の人たちに本当に日本の良さと同時に大阪の良さがわかってもらえればいいなと思います。

塩屋 俊さん写真海外の人ももちろんですけれども、日本人でも若い人たちはなかなか日本の本当の良さを認識している人は少ないと思うのです。

私は今度10月に国立文楽劇場で勧進帳を弾くのです。勧進帳というのは日本人の心の情の部分が本当に表されている世界で、私は三味線を弾いていても、自然に自分で涙が出てくるくらいに素晴らしいなと思うのです。

こういったものを若い人たちにももっと聴いてほしいと思います。そして日本の音の粋さを分かってほしい。例え分からずに聴いていても、何かを感じてくれれば、そこからスタートして日本というものをもっともっと理解してもらえるのではないかなと思っています。
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