それともう一つ、最近、海外公演に私が一番多くは行っておりますけれども、中村勘三郎君がニューヨークへ行きまして、あれも大阪のお芝居で行きました。そして海老蔵さんがパリへ襲名しに行ってきましたのも「鳥辺山心中」という京都のお芝居でした。21世紀に入って海外公演に行きましたのはそれぐらいなのですけれども、全部上方のものなのです。上方のお芝居には、上方人独特の温かさと激しいエネルギーを感じさせるものがあって、世界の人たちに非常に分かっていただけていると思うのです。
ですから、長い伝統をちゃんと守って現代に生きているこの大阪というものの強さを感じて私は本当にうれしく思っておりますし、これからも頑張りたいと思っております。
私は、坂田藤十郎という名前を今年の12月の京都の顔見世興行から襲名させていただきます。襲名というのは、その名前の人の家や血筋、芸を継ぐことをいいますが、私には襲名という言葉がちょっと当てはまらないように思います。坂田藤十郎という名前に生まれ変わって、誕生するといったほうがいいのですが、誕生興行というわけにもいきませんので、一応歌舞伎の中では襲名と言っております。
上方歌舞伎の錦絵を見て思ったのですけど、初代の藤十郎という人はその時代で伝統を踏まえながら生き、自分の芸をつくり、上方歌舞伎というものをつくられたのだと思います。私はその精神、その強さ、その尊さみたいなものを体に受けたいと思っております。
誕生というのは、少し私の言い過ぎかも分かりませんけれども、襲名興行をして、その藤十郎という名前を錦の御旗にいただいて、上方歌舞伎をより一層親しんでいただいて、日本だけでなく世界に広めたい覚悟でございます。
また舞台の上からお目にかかります。失礼申し上げました。
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