大阪弁の成り立ちと特徴
大阪弁のルーツを探るとすれば、それは、大阪という町がどのようにして成立したか、ということと深くかかわる。大阪が、町としての体裁を整えたのは、そう古いことではなく、せいぜい近世のはじめころということになる。近畿方言に詳しい武庫川女子大学教授・山本俊治さんによると、江戸元禄期に大阪の町らしい町ができあがり、大阪弁もそのころ成立したと考えていいらしい。ちょうどこの時期は、大阪に文楽や歌舞伎、落語やにわかが成立しはじめた時期と符節を合わせている。天下の台所としての莫大な富や経済力をバックに、大阪の文化は花開き、大阪弁が確立された。西鶴や近松の文学作品も、このころ生まれた。このことは、18世紀、ドイツにおいて、ゲーテやシラーなどの作品により国民文学が花開き、ドイツ標準語が確立されていく過程と比較すると面白い。大阪弁はその後、近代に入って人口の流入等により、スピーディな商人言葉に変化する。東京大学助教授・尾上圭介さんは、大阪弁の特徴を、次の5つを上げて説明する。
(1)相手との距離が近い。誰とでも親しいように、ものを言う。実際はそうでなくても、それがルールだ。たとえば、「寒いなぁ」と声をかけられたら、「ああ寒い寒い、まるで冬みたいや」と、一言二言つけくわえて答える。
(2)対応が細かい。相手に合わせて、実に微妙な使い分けをする。たとえば、「早(はよ)うせんかい」と命令しておきながら、語尾に「な」をつけ、「早うせんかいな」と、あたかも相手の横に回って肩を抱くような高等戦術をやる。
(3)合理性がある。理屈が立っていないと納得しない。主体性が強い。
(4)複雑な内容を全体的・感覚的に把握する。大阪の天王寺動物園のライオンの檻(おり)の前には、「かみます」と一言で書いてある。わかりやすい。
(5)饒舌。とにかくよくしゃべる。大阪の言葉の根底には、大阪人の心の動き、行動様式、文化が隠されているという。